大人になった自分と 大人になりきれない自分との狭間で、
何とか折り合いをつけようと必死にもがいている人間は案外と多い。
そう、現実はやはり厳しい。夢を追い続けるべきか否か、その答えを他でもない、己の人生が求めてくるのだ。
だから誰もがきっと立ち止まる。そして考える。
──────自分はこのままでいいのだろうか?
これは、厳密にはその問いへの“回答”ではない。でも、確かな“ヒント”ではある。
『夢の向こうへ』を聴いて、少しでも気分がラクになったなら、
あなたはきっと夢を追い続けるべき人なのだと思う。
このままでいいのかどうか、決めるのはあなた自身だが、
でも、その迷いさえも肯定されると、やっぱり素直にうれしい。
今度のHi-Fi CAMPは、そう、現在と過去に夢見るすべての人に徹底的にやさしいのだ。
──『夢の向こうへ』はKIMが書き下ろした曲ですが、
大人になりきれなかった自分を肯定してくれるような内容で……蒼い、ああ、蒼いな(笑)。

だからこの曲は、俺の言いたいことを全部言えた曲でもあります。
自分のために書いたし、近しい友達のために書いたというのが
正直なところですね。
もう三十路目前なのに就職してないヤツとか、俺の周りにはほんといっぱいいて。
やりたいことが何なのかさえ見えなくなってきてる。
でもそういうのって、若い時に挫折してきた結果でもあるじゃないですか。
でも現実は、続くって言うか日常は続く訳で、
だから、そもそもの夢を諦めなくてもいいんじゃないかなって。
頑張れっていうのは無責任すぎるけど、
でも、なんかそういう気持ちを伝えたかったんですよね。
──KIMはすでにプロのミュージシャンとして生活しているのに、
もがいていた頃の自分を意識的に忘れないようにしているの?
KIM:忘れたくないし、それでいいとも思っています。
それこそが俺らがずっと仙台に住んでる意味だと思う。
今も仙台の音楽シーンで頑張ってるヤツもたくさんいますけど、
そいつらと根っこの部分ではいつまでも同じ。俺らもチャレンジャーで
ありつづけたいっていう気持ちもこの曲に乗せたかったんです。
SOYA:俺なんか素直にグッときましたよ。メロディやサウンドよりもまず歌詞が最初にぐっと入ってきて。
なにしろ「毎日が夢の足跡」っすよ!? これはヤバイねって(笑)。
このひと言だけで、もう言うことないでしょう。

って歌われたら、諦めるのを諦めようかと思う(笑)。
SOYA:でしょ!?
KIM : 大げさな夢っていうのは超個人的なことなんですけどね。
俺、バンド始めたの遅くて、高校卒業後にはじめて結成したんですよ。
だから中学の同級生に「俺、プロになるんだ」とか言うと
「は!?」って言われてた(笑)。
でも、それに対しても物怖じしないで
自分の気持ちを言えるようになったときって、
俺の心が決まったときだったんです。
その腹くくった感じを忘れたくないんですよ
夢がもし叶わなくても、最終的に俺は頑張った!
って誇らしく死ねればそれでいい気がするんですよね。
──男の子っぽいです。男っぽいんじゃなくて。
KIM:あのね、すっげー泣いてるヤツいたんです、この曲で。
夏のツアーで初めてこの曲を披露したんですけど、ファイナルの仙台でね、
客席にいた20代半ばから後半ぐらいの男がめっちゃ泣いてて。
それ見たらもう、俺もすごい気分上がって、俺は今からお前のためだけに歌うぞ!
って思って。もうね、2コーラス目のAメロとかでもう泣き崩れそうだった。
──“俺の歌”だったんだろうね、その彼にとっては。
KIM:いや、あれはほんと力もらいました。嬉しかったっすね。
──サウンドワークでも歌詞の世界観が最大限活かされているので、そりゃあ伝わりますよね。
KIM :鍵盤と歌しか入ってないデモを、AIBAがいろいろと面倒を見てくれて(笑)。
歌詞はその時点で1コーラスあったんで、これが俺のイメージだから、
あとよろしく!って丸投げしちゃったんですけどね。

僕の中では、KIMが書く曲といえば、
ど真ん中にある曲と冒険したがってる曲、その二択しかないんで(笑)。
KIM:2つあるだけいいじゃないですか(笑)。
AIBA:で、これはKIMの王道なんです。
アルバムに向けて今年作った曲を並べてみたときにも、
『夢の向こうへ』には何か光るものがあって。
ま、メロディかな、と。メロディがすべてなのかな、と。
だからサウンドもオーソドックスに作ったんですけど、
王道だからこそちょっと遊べた部分もあったりして、
僕も作ってて楽しかったんです。
KIM:センチメンタルな雰囲気出してくれたよね。
俺、何も言わなかったんだけど、
自然に俺のおセンチな部分を汲み取ってくれたみたい(笑)。
TOSHIRO:ああ、だいぶおセンチだからね、KIMの場合(笑)。
──カップリングの『HOME』もしかり、です。
KIM:ま、発信元が同じですから(笑)。
『夢の向こうへ』が夢を諦めなくていいよっていう歌だとしたら、
こっちでは、それでも疲れたときはたまに故郷に帰ってみたら?ってことを歌ってみました。
頑張ったお前はその場所でちゃんと受け入れられるんだよっていう。
SOYA:『HOME』は俺、超楽しかったですよ。
KIM:SOYAに曲聴かせたときに「この世界観わかるよ」って言ってくれたんで、
歌に関しても何も注文する必要はないなと思って。
──少年時代を描いているようで、とても男っぽい曲ですね。というか、男の色気がある。
KIM:ほんとですよ。めちゃめちゃ出しましたよ、SOYAが。
SOYA :はい、めちゃめちゃ出しました。
──ねぇ? ブース暗くして歌ったんじゃないかってぐらい。
AIBA :ていうか、それは常に(笑)。
──あ、そうなんですか(笑)。
SOYA:そうなんです(笑)。
AIBA :レコーディング現場での楽しみのひとつがね、SOYAがブースに入ったときと、出て来るときのギャップ。
何かしら違うんです(笑)。
TOSHIRO:ほんとですよ。入ったときと違う姿で出てくるんです。
AIBA :上着は最低1枚は脱ぐよね。何かしら変化するんですよ。
──今回は出てきたときどんな顔してた?
SOYA :たぶん「どや!?」って顔してたと思う(笑)。
KIM :タンクトップで出てきたね(笑)。
SOYA :あれは仕上げたぞ! 歌に集中できたから。
──そのおかげで、夕暮れのノスタルジックなイメージに、大人の色気がにじむという荒技が。
KIM そうそうそうそうそうそう! それで現在との繋がりも感じられるっていうね。
心ぎゅっとされるような感じに仕上がりましたね。
──メロトロンの音も効いています。
AIBA:哀愁をかもし出しますよね、あれ。ビンテージ感があるというか。
KIM:あと、 TOSHIROもいぶし銀のスクラッチを差し込んでくれて。
TOSHIRO:あれはスクラッチというよりネタ探すのが大変でした。
海外のサイトでね、声ネタだけのサイトがあってね、ずーっと聴いていって、イギリスのサイトでゲットしたんですよ。
──今作、TOSHIROが手がけた『SENDAISTA』のリミックスを含めて、
メンバー4人それぞれが、得意なことを極めた結果の作品かもしれないですね。
KIM:そうですね。前作の『一握りの空の下』が、
4人で最初から同じ目標を目指して突き進んだ感じだとすれば、
今回は逆をいくのかも。ただ、タクトを確実に振ってくれる人(AIBA)がいるから、
4人が別の方向を向いても、Hi-Fi CAMPの軸みたいなものはブレないんです。
──少なくとも今作は、男泣きを誘うでしょうね。

TOSHIRO:高校生ぐらいのヤツらが
『夢の向こうへ』を聴いたらどう思うんだろうね?
SOYA:その世代はまだ“向こう”じゃないよね。
“夢の手前”だから(笑)。
──ああ、夢の境界線のこっちとあっちで捉え方が違うかもしれません。
KIM:そうっすね。ただ、若い子たちもそれなりの挫折はあるだろうから、
共感してもらえる部分もあるとは思うんですよ。
ただ、やっぱりリアルに受け止めてくれるのは、
あの泣いてた彼みたいな20代ぐらいの男の人かな。
SOYA:もちろん他の曲でも泣いてくれる人はいるんですよ。
人それぞれ、思い入れのある曲って違ったりするしね。
ただ、どんな曲であれ、男が人目をはばからず泣いてくれるっていうのは、
本当の意味で嬉しいよね。
──そのエピソードだけで、『夢の向こうへ』という
楽曲が生まれ持った力の大きさがわかりますね。
KIM:だからもう、その彼の人生とずばり重なったんでしょうね。
そこまで感情移入してくれるのは、ほんとうれしい限りです。
作り手としても、歌い手としても、
こんなに喜ばしいことはないんじゃないかってぐらい。
そういう感動が、少しずつでも広がっていけばいいなと願っています。
インタビュー&文 斉藤 ユカ